素材として何を使うか

大人たちへ

 ここまで進んでしまった人類の文明において、“道具”や“建物”、“製品”を捨て去ることは、もやはできません。しかし、これまで同様の営みを続けてゆけば、地球環境は、人類の存続にとって望ましくない方向に進む一方です。

 ポイントは、“道具”や“建物”を作る素材にあります。何を使えば地球環境(=我々の生存環境)に負荷が少ないかを考えてみます。

どんな素材があるのか

 人類の文明を過去からたどると、一番最初に使われたであろう素材は、オーガニック素材でしょう。オーガニックという言葉は、有機物のことですが、一般的には植物素材を指して用いられますね。代表的なオーガニック素材は、木材や、草からとれる繊維や綿などです。

 一般的表現ではありませんが、元の意味からすれば、動物の皮革や絹などもオーガニック素材に当たるでしょう。動物由来の素材は、植物より加工の手間がかかりますが、早い時期から用いられていたと考えられます。さらに、無機物主体ですが、骨材も、初期につかわれた素材であると考えられます。

 次に石や鉱物が、道具や建物の素材に用いられました。最初は自然に存在しているものをそのまま用い、そのうち加工して用いるようになりました。

 石を使い始めた時期との前後は定かではありませんが、土も早い時期に加工して用いたのではないでしょうか。最初は日干し建材として。次第に火を用いて土を焼き固めた陶器、さらには磁器を使い始めたのではないかと思います。

 そして人類の文明は、石器時代から青銅器時代・鉄器時代へと移ります。4000年くらい前から鉄を用いるようになりました。現在でも、鉄を代表とする様々な金属が使われています。同じく4000年ほど前から、砂を用いたガラスも使い始めました。

 古代ローマ時代には、コンクリートが使われ始めました。当時はセメントとして、自然に産出する火山土や軽石、焼成した粘土、陶器片などを使っていました。そして産業革命以降に現在使われるようなセメントが開発されてきました。

 そして20世紀に入って、プラスチックが使われ始めました。

 そのほか近現代において、カーボンなど多彩な高機能素材が作られています。しかし、使用量が限られており、本テーマの趣旨をふまえて以下の議論では割愛します。

  • オーガニック素材
  • 石・鉱物
  • 陶磁器
  • ガラス
  • セメントコンクリート
  • 金属(主に鉄)
  • プラスチック

素材の原料

 オーガニック素材石・鉱物は、天然の素材をそのまま用います。

 陶器・磁器の原料は、粘土、珪石、長石です。全て天然の原料です。

 ガラスの原料は、珪砂(いわゆる砂)、ソーダ灰(炭酸ナトリウム)、石灰です。このうちソーダ灰は、化学的製法のほか、トロナという鉱石からや、海水を電気分解することでも作られます。砂や石灰は、天然原料です。

 現在の一般的なセメント(ポルトランドセメント)の原料は、石灰石、粘土、珪石、酸化鉄を含むスラグ、石膏です。酸化鉄を含むスラグは、金属を鉱石から製錬する際の副産物です(鉄鉱石等、他の原料で酸化鉄を加えることも可能だと思います)。

 金属、鉄の原料は、それを含む鉱石です。金属鉱石のうち、人類文明において最も重要な鉄鉱石は、鉄を酸化物として岩石中に含んでいます。鉄を製錬する際、これを還元するために、現状コークス(炭素)が用いられます。

 プラスチックの原料は石油です(植物由来もありますが、1%未満です)。石油を精製してナフサを取り出し、これからエチレン・プロピレン・ベンゼンなどのプラスチック原料がつくられます。

※鉄は地球の組成に占める質量割合が最も多い元素(34.63%)です。地殻以上の範囲でも、酸素・珪素・アルミニウムに次いで第四位(4.7%)です。ちなみに、酸素49.5%、珪素25.8%、アルミニウム7.56%。珪酸SiO2はガラスの主成分です。

素材原料
オーガニック素材天然の素材をそのまま
石・鉱物天然の素材をそのまま
陶磁器粘土、珪石、長石
ガラス珪砂(いわゆる砂)、ソーダ灰(炭酸ナトリウム)、石灰
セメントコンクリート石灰、粘土、珪石、酸化鉄を含むスラグ、石膏
金属(鉄)金属鉱石、コークス
プラスチック石油

素材ごとの環境負荷は?

◆オーガニック素材

 植物由来(木材・繊維)や動物由来(皮革・繊維)のオーガニック素材は、基本的に酸素(O)、炭素(C)、水素(H)、窒素(N)の4つで作られています(※)。成長過程では、呼吸や代謝で二酸化炭素やメタンなどの有機物を放出します。他方で、環境から酸素や炭素を取り込んで、体(素材)として固定します。植物については、光合成で二酸化炭素を吸収し、体やエネルギーを作り出します。

 廃棄の際には、焼却すると水と二酸化炭素になります。しかし、そもそもそれらは、成長の際に環境から取り込んだものです。それらが環境に還ってゆくことになります。

 植物由来のオーガニック素材は、数十年から百年スパンでは、その環境負荷は中立となります。廃棄物として見ても、数十年で分解され、長く残りません。

(※)木材は、炭素が50%、酸素が44%、水素が6%。人体であれば、酸素65.0%、炭素18.0%、水素10.0%、三つで93%を占めます。


 オーガニック素材を除き、挙げたすべての素材で共通する環境負荷は、原料採掘時のものです。山を削ったり、地面や川砂利を掘ったりすることで、その地の環境が変化します。生態系に影響を与えることもあります。また採掘の際に、目的の原料以外に出る副産物が生物に有害であることもあります。

 以降個別に見てみます。

◆石・鉱物

 石・鉱物を素材としてそのまま使う場合は、採掘時を除けば環境への負荷はやはり中立です。製造過程は存在せず、廃棄時にも、そのもの自体以外の要素は排出されません。

◆陶磁器・ガラス・セメント

 陶器・磁器、ガラス、セメントコンクリートについては、原料の採掘時に加え、素材を製造する際にも環境負荷がかかります。これらの素材を作るためには、いずれも高温が必要となります。環境負荷は、この熱の得方に依存します。

 廃棄の際も、天然には存在しなかったもの(※)である点を、環境負荷として留意する必要があります。これらの素材に共通することは、地球の長い活動の中で地下に還るまで、分解はされないであろうということです。風化により砂状に砕けるまで、形のあるゴミとして残り続けます。

(※)厳密には、地球の地下活動や噴火で同様の物質が作られる場合もあると思います。

◆金属(鉄)

 金属、主に鉄についても、陶磁器・ガラス・セメント同様、原料の採掘時や、素材製造時の熱供給にともない、環境に負荷がかかります。

 しかし、上記のものと大きく異なるのは、製造時の廃棄物として、二酸化炭素が発生する(※)ことです。鉄は、自然界では鉄鉱石(酸化鉄)として存在しています。製錬して鉄を得るためには、この酸化物を還元しなければなりません。現在人類が行っている製錬の方法は、コークス(炭素)を還元剤として一緒に加熱し、鉄と二酸化炭素に分離するものです。水素で還元する方法の研究が行われていますが、炭素による製鉄に代替するには、ほど遠い状況です。

(※)ガラスの原料であるソーダ灰(炭酸ナトリウム)についても、製造方法によっては、あえて二酸化炭素を“生産”します。これは、二酸化炭素がソーダ灰の製造過程で必要なためです。しかし、ソーダ灰は、トロナという鉱石からや、海水を電気分解することでも作れます。

 鉄を廃棄した際には、天然には存在しない形で多くが残ります。しかし一部は、時間とともに風化し、元の酸化物へと還ってゆきます。

◆プラスチック

 最後にプラスチックですが、これも原料の採掘時や、素材製造時の熱供給にともない、環境負荷がかかります。プラスチックの原料は、主に石油です(植物など石油以外の原料は1%未満)。そして天然には存在しない物質です。このプラスチックが前述のものと異なるのは、廃棄する際の環境負荷です。

 まず、廃プラスチックを焼却すれば、もとは石油ですから、二酸化炭素を排出します。しかし、現状焼却処分される廃プラスチックは、全体の12%にとどまっています。

 廃プラスチックの8割弱が、埋め立て処理されています。これらは、分解されにくい一方、風化しやすく、細かく砕けて環境中に拡散してゆきます。これが生態系や人間の健康の脅威となりつつある、マイクロプラスチックやナノプラスチックです。一部、太陽光や熱で分解されたプラスチックは、二酸化炭素やメタン(二酸化炭素の21倍の温室効果がある)になり、気候変動を加速させます。

 総じてプラスチックの環境負荷は、他の素材にくらべ突出していると考えています。

リサイクル

 ここまで読んで「ちょっと違うのでは」と思う方もいるでしょう。そう、ここまでの記述には、リサイクルの寄与が加味されていません。

※以下では、同様の素材への還元のみをリサイクルとしています。燃料としての有効利用や、破砕廃棄物をセメントに混ぜる等の“処理”については、素材のリサイクルとは考えません。

 オーガニック素材のうち、繊維については、再生繊維などへのリサイクルが可能です。木材については、木質ボードや紙などの製造が可能です。

 石・鉱物にリサイクルはありません。そのまま流用するか、廃棄するかだけです。

 陶磁器は、自身を破砕した粉を混ぜた粘土で再び陶器を作る取り組みがなされているようです。セメントについても、自身や他の廃棄物を混ぜて、製造されています。しかしこれらは、あくまで廃棄物を環境中に出さずに、製品内に取り込んでいるだけです。

 一方、ガラス金属は、溶かして素材として再生することが可能です。実際、ガラス瓶や缶飲料容器は、国内ではリサイクルがうまく回り始めています。それらについては、7割以上の素材リサイクルがなされています。しかし世界、素材全体としてみれば、まだまだ廃棄される場合のほうが多いと考えられます。

 プラスチックについても、リサイクルが可能で、推進が叫ばれています。しかし実際にリサイクルに回る廃プラスチックは、年間生産量の9%にすぎません。

素材原料採掘時製造時廃棄時リサイクル
オーガニック素材低(再生
循環する)
呼吸・代謝と
炭素固定で相殺
CO2排出は中立
生分解
石・鉱物環境破壊環境に残留そのまま流用
陶磁器環境破壊高温の発生方法
に依存
環境に残留次製品に混入
ガラス環境破壊高温の発生方法
に依存
環境に残留
セメント
コンクリート
環境破壊高温の発生方法
に依存
環境に残留次製品に混入
金属(鉄)環境破壊高温の発生方法
に依存
製錬時にCO2発生
環境に残留
プラスチック環境破壊高温の発生方法
に依存
環境に残留
破砕され拡散
生態系に悪影響
焼却時にCO2発生

現状少ない
素材のライフサイクルにおける環境負荷

素材として何を使うか

 人類が存続してゆくために、これから何を素材として選ぶべきかを考えてみます。

 まず、素材として一番に使うべきは、やはり環境負荷が中立なものです。使用可能な用途では、オーガニック素材、木材や植物繊維を極力使うことが、廃棄まで含めた環境負荷を小さくすることに貢献します。

 廃棄物は残りますが、おなじく石・鉱物をそのまま使うことも、推奨できるでしょう。

 木材や石材では代替できない用途には、製造にエネルギーが必要なガラス陶磁器セメントコンクリートも、限られた範囲で使う必要があるかもしれません。しかし溶かしてリサイクルすることが可能なガラスが、より環境負荷が低いと言えます。ガラスの原料であるソーダ灰の製造は、二酸化炭素の供給が必要ない方法で行う必要があります。

 これらの素材は、化石燃料に頼らず、自然エネルギーで生産することが重要です。ほしい生産量に対して、自然エネルギーが足りないのであれば、不足分を化石燃料に頼るのではなく、生産量をあきらめるという覚悟が必要です。

 金属に関してもすべての点で、ガラスとほぼ同様です。ほかの素材で代替できないのならば、鉱石を原料とする生産から、廃材を原料とする生産にシフトすることが重要です。結果として金属が不足するとしても、用途を絞り、使用量をおさえる取りくみが求められます。少なくとも、水素による製錬が可能となるまで、そうしてしのぐ必要があります。

 プラスチックについては、他の素材で代替可能なものがほとんどです。もちろんコスト増大や、機能低下はあるでしょう。しかし環境負荷の低減、すなわち人類の存続と、それを天秤にかければ、どちらを優先すべきかは明白です。どうしても利用が避けられないものについてのみ、利用すべきです。

 また化石燃料の採掘自体と共に、石油からの新たなプラスチック製造は止めるべきです。必要不可欠な用途には、リサイクル材料で対応します。逆に、いまあるプラスチックは、全てリサイクルし、環境には決して放出しないことが求められます。

◆植物由来プラスチック

 オーガニック由来のプラスチックは、ある程度利用ができるかも知れません。それが生分解される素材であれば、分解時に植物が固定した二酸化炭素が環境に還るのみです。しかし、もし生分解せず、長く環境にとどまる素材であるならば、これも廃棄の際に環境に放出しないことが重要です。それは確実にリサイクルするか、焼却処分すべきです。

素材推奨度ポイント生産時の環境負荷低減
オーガニック素材☆☆☆☆☆
石・鉱物☆☆☆☆
陶磁器☆☆自然エネルギーで生産
ガラス☆☆☆リサイクルで調達
CO2を用いて原料を製造しない
自然エネルギーで生産
セメントコンクリート☆☆自然エネルギーで生産
金属(鉄)☆☆☆リサイクルで調達
炭素を用いて製造しない
自然エネルギーで生産
プラスチック完全リサイクルし、環境に拡散させない
新規製造しない(石油採掘も含め)
自然エネルギーで生産
植物由来プラスチック☆☆☆生分解するものを使う
生分解しないものは環境に拡散させない
自然エネルギーで生産

 道具や建物、製品を作るとき、代替が可能な限り、極力“推奨度”の高い素材を選ぶべきです。

素材のシフトは実現できるのか

 ここまで書いてきたことを実現すると、利便性は低下し、コストは上昇します。当然、人類はなかなか踏み出せないでしょう。しかし人類の生存環境が、取り返しのつかないところまで変化してしまえば、元も子もありません。

 少なくとも数百年前の人類は、セメントやプラスチックが無くても問題なく生活できていました。むしろ、それらを使い始めた現代の人類の方が、問題を抱えながら生活をしています。それも存続に関わる問題です。

 素材のシフト、生活のシフトが実現できるか否かは、生存環境の悪化阻止に、どれだけ真摯に取りくめるかにかかっています。生存環境の悪化は、人類の存続可能性の低下と同義です。

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