地球システムにおける人類
地球システムの中で「人類」という生命種が生まれました。およそ700万年前のことと言われています。
※「地球システム」という言葉については、前章「人類は地球システムの一部」を参照。
もちろん人類も、地球の営みにその誕生・生存・滅亡を依存する、地球システムを構成する要素の一つです。他の生命同様、地球環境に変化を与える能力を持っています。その環境変化は、ときに他の生命種に対し、その存亡に関わる影響を与えるものでもあります(地球環境を大きく変えた生命という意味では、人類はシアノバクテリア(藍藻、アオコ)の足元にも及びませんが)。これらは、これまでに誕生した地球生命と共通する特性です。
人類と他の生命との違い
しかし人類は、他の地球生命とは異なる点がいくつかあります。まずは、相対的に以下の点が他の生命と異なります。
- 高い知性
- 強い欲望
そして人類は、その「高い知性」が生んだ次の三つを獲得しました。
- 欲望を達成する強い力
- 学問・芸術
- 理性
これらは人類を他の生命と異ならしめている特性です。しかしこれを見て、一部抵抗を感じる方もいるでしょう。これから説明してゆきます。
※「高い知性」については、異論がある方は少ないと思いますので、割愛します。

◆強い欲望
人類は、地球生命の中でも最も強い欲望を持つ種族です。他の生命は、自らの生存や子孫・種の繁栄に対する欲求が中心です。しかし人類の欲望は多岐に渡ります。
人類の「強い欲望」には、まずは生得的な生存欲求の強さがあると思います。生存欲求はどんな生命にもあります。しかし人類のひときわ強い生存欲は、次のような行動に現れます。
例えば、人間の本能は、自分、家族、仲間を害する者から守るために、敵(同じ人類である場合も多い)を殺すことも厭いません。自分たちがより安全に、より安楽に暮らせる居住地を得るため、(戦争などで)同種族の人類の命を奪うこともあります。
人類は、安楽や食に対する欲求も高く、より快適な住居や、より美味しい食物を追い求めます。また楽しいと感じる体験を求めます。そして自身の安楽・美食・享楽などを得るために、同種族の人類から搾取をしたり、隷従させたりもしてきました。
◆欲望を達成する強い力
人類が持つ欲望を実現させる力は、生命種の中で突出しています。人類がその高い知性を背景に得た「欲望を達成する強い力」は、道具や製品、機械、技術を生み出しました。暗闇でも活動できるよう光を得、心地よく過ごすための住居や空調を生み出し、多くの食物を得る方法や美味しい食材を作り出してきました。遠くへ速く移動できる手段を開発し、鉄とプラスチックの利便性を享受し、他の生物や同じ人類との争いに勝つための方法を磨いてきました。
さらには、価値あるものの収集、スポーツ、遠隔地への移動、ゲームなど、生存や生活の基本的な欲求を超えた、個体が楽しむための活動を生み出してきました。
◆学問・芸術
他方、人類は知性で「学問・芸術」を築き上げてきました。もとより人類は、好奇心が強い生物です。その知性を用いて「人類自身」と「この世界」を知ろうとしてきました。自然・社会・人文のすべての科学が、究極的には「人」と「この世」を探求することにつながっていると思います。
また「美」を求め、芸術を創造してきました。人類は、この世界の真実を解き明かし、美を追求するという、他の地球生命にはない新たな営みを始めました。
◆理性
もう一つ、人類の知性は「理性」を生み出しました。「理性」とは「何か」を律する心です。その「何か」には、利己的欲望、怠惰、怒りなどがあります。
なぜそれら「何か」を律する必要があるのでしょうか。それは「利他」のためです。
人類の本能は、ときに攻撃的で冷酷です。自分と仲間の利益のために、敵を倒すことも厭いません。他方で人類は、本能的に相手が喜ぶと自分もうれしくなります。この利他欲求は、単なる脳の報酬系の作用かも知れませんが、人類が生まれながら持つ愛すべき美点です。理性の根底には、この利他を尊ぶ人類の性質があります。
そして理性は、人類が学んだ教訓を教育として語り継いできた成果でもあります。人類は、「何か」を律することで、より良い結果を得られることを経験として学び、教訓として残し、次世代に伝えてきました。
例えば、「相手を倒すより仲良くする方がより良い結果を生む」、「自分の利益だけを追求するより、相手と利益を分かち合う方がより良い結果を生む」といったことです。「人を殺してはいけない」ことも、「戦争をすべきでない」ことも、「他者の権利を尊重する」ことも、あまたの世代を通じて人類が学んできた賜物です。
人類の地球上での営み

上述のように他の生命と異なる人類は、そのゆりかごである地球上で、どのように活動してきたのでしょうか。数百万年前の人類の暮らしは知るよしもありません。しかし、人類が文明を急速に発展させたここ数千年の営みは、おおむね分かっています。人類は、次に挙げるようなものを利用し、文明を築き、発展させてきました。(その営みの詳細は他に譲り、ここでは割愛します。)
◆人類が利用してきたもの:
言葉、文字、道具、火、木材、鉱物、金属、機械、化石燃料、化学物質(プラスチック等)、電気、電子機器、情報通信、生命工学、など
文明の発展は、主として「欲望の実現」を目指して推し進められてきたものです(もちろん文明の発展には、学問や理性の進展も含まれますが)。文明の発展よって人類は、安全や利便、安楽、享楽を得てきました。他方で、文明発展の営みは、地球環境に変化(※)を及ぼしてきました。他の地球生命に対しても、影響を与えました。
(※) あえて「汚染」とは表現しません。次々項、「人類の地球システムにおける立ち位置」で詳述します。
人類は、文明を極める一方、自らを生み育てた環境を自らが生存しにくい状態に変えてゆきました。
例えば、いまの地球の大気は、酸素0.21気圧、二酸化炭素0.00041気圧(大気の0.041%、410ppm)くらいです。8000万年前からつい数百年前(俗に言う産業革命前)までの二酸化炭素は、一番濃度が高い時期でも0.00028気圧(大気の0.028%、280ppm)だったと言われています。人類の営みがここ数百年で1.5倍弱増やしたことになります。
人類の誕生は、700万年前です。人類が誕生する7000万年以上前から、大気中の二酸化炭素濃度は170ppm~280ppmの間で保たれてきました。人類は、種の誕生以来、初めて経験する環境に生きていることになります。8000万年前以降に現れた他の生命も同様です。
400ppmを超えた大気の二酸化炭素濃度は、人類の営みが大きく変わらない限り、今後も年平均で2ppm以上上昇し続けてゆくでしょう。
温暖化・海洋酸性化など地球システムへの影響は、まだ分かり始めたばかりです。その影響が、我々生命にどのように降りかかってくるのか、人類にはまだ十分みえていません。人類が経験したことがなかったその二酸化炭素濃度が、人類の生体や脳に与える影響も分かっていません。
地球システムの営み

地球システムは、少なくとも人類が誕生したその時点では、人類が誕生可能な環境を用意してくれていました。それは、人類にとって生存しやすい(楽に生きられるという意味ではない。存続できる可能性が高い、ということ。)環境のはずです。地球が生命を育む、優しい一面です。
そして地球システムの中で生まれた、人類の活動がもたらした環境変化は、地球システムにとってはほんの些細なものです。地球システムは、自らの一部である生命がもたらす変化を包み込んで、営みを続けます。しかしその営みは、ときに個々の生命の存続を気遣ってくれるような優しいものではないこともあります。
ある時は、環境変化の振れすぎに対して負のフィードバックを与えることもあります(海洋が酸性化して二酸化炭素の増加を抑える、など)。一方、正のフィードバックで応える(温暖化で氷河が融け、熱を生む太陽光を反射せず吸収するようになる、など)こともあります。
そして、生命の営みなど無関係に、巨大噴火で膨大な二酸化炭素を放出することもあるのです。
人類を含めた生命種の誕生や絶滅も、その大きな地球の営みの一つのイベントでしかありません。人類を生み育んだ地球の状態がいつまで維持されるのかは、人類にはわかりません。地球システムの営みに委ねるしかありません。
人類は、いずれはその存続も含めて、地球システムの営みに飲み込まれてしまうでしょう。
人類の地球システムにおける立ち位置
人類は地球環境を“変化”させてきました。他の生命種に対して、その存亡に関わる影響を与えています。そして人類は、その変化が自らの存亡に関わるものでもあることに、ようやく気づき始めました。
“環境汚染”という言葉があります。例えば大気や水に「人類にとって」有害なものが放出されれば、人類の目線からすれば、それは“汚染”です。
しかし、地球環境にとっては地球システムの一つの生命が引き起こした“変化”でしかありません。放射性物質の放出ですら、地球にとっては大きな変化ではありません。20億年前の地球では、ウラン235が天然で臨界核分裂を起こす3%の濃度で存在していました。
それら人類が引き起こす“変化”は、人類を含む多くの生命を死滅させるかも知れませんが、地球システムの長い営みの中では些細なものです。それらは、長い年月をかけて地中に還り、新たな物質となり、また新たな環境を生み出すでしょう。
人類が誕生したとき、人類が生存・存続できる確かな環境がありました。しかし、人類は自らの手で、その知性で得た強い力で、自らの生存しやすい環境を損ねつづけています。
もとより地球システムが、人類にとって恵まれた環境をいつまで存続させてくれるのかは、分かりません。そして人類に地球システムの営みを完全に制御する力はありません。人類は、自らがもたらした環境変化の収拾すら、自身でつけることができていません。
そのような人類が、自らの誕生をうながし、育んだ地球の環境を、変えてしまうべきではありません。
それは多くの人類が気づいていることだと思います。